●ロシア金融危機がもたらす脅威
「ロシア問題は中央ヨーロッパ、そして国際問題へ発展する可能性がある。」
98年6月1日、アメリカ財務副長官ローレンス・サマーズは、ウィーン国際通貨会議でこう述べた。この会議は一週間続き、「ロシア金融危機の国際処理」について話し合われた。ロシア危機は現在、世界問題と広く認識されている。サマーズ発言の前日、クリントン大統領は異例の日曜演説を行い、次のように述べた。
「私はIMF・世界銀行が、ロシア改革支援のために強力に関与することを望みます。ロシア通貨安定は重要問題であり、必要に応じて、国際金融機関から追加の条件付金融支援を行うことも考えています。それはロシアにおける通貨安定・構造改革・経済成長を促進するためです。」
IMFは、ロシア経済の成長基盤に対し、遅れている6億7000万ドルの支援を行う予定である。しかし、噂によれば、ロシア株式市場が現在持ちこたえているのは、ロシア経済に何十億ドルもの支援が行われたからである(ロシア株式市場は5月、44パーセント下落した)。ロシア国債を売る動きは、80パーセント以上から45パーセントにまで落ち着いた。ロシアのキリエンコ首相は、訪問先フランスで「経済は底を打った」と述べた。
これまでロシア政治要人は「経済は底を打った」と何度も述べてきた。キリエンコもその一人である。しかし、実際はそうではない。ロシアは多くの負債支払い期限を目前にしている。例えば、今後数週間に期限が迫っている週決め国債(GKO)がある。GKO利率の上昇により、ロシア経済は木っ端微塵に吹き飛んでしまった。公務員の給与支払いは滞り、国家経済の安定が根本的に揺るがされている。
6月2日、ロンドン金融筋は次のように語った。
「ロシア状況はとても危機的です。モスクワ株式市場の急激な下落によって、投資家は収支を合わせることができず、ロシア銀行業界全体に債務不履行の波が押し寄せる可能性があります。ロシア問題はG7が現在直面している最大の問題であり、それは日本の円問題よりも複雑です。」
アメリカ財務長官ロバート・ルービンも、CNNとのインタビューで、同じ懸念を表明した。
「もしロシアが本当に不安定、困難な状況に直面すれば、再び連鎖反応の危険がある。それは中央ヨーロッパに波及し、ひいては世界に影響を及ぼすだろう。」
現在、ロシア問題についての緊急会議が計画されている。それはG7次官級会議で、6月7日に予定されている。6月3日には、日本経済新聞が「G7各国は共同で100億ドルの金融支援を計画している」と報じた。
サマーズ、ルービンらによって表明された懸念、つまりロシア危機が中央ヨーロッパ、そして世界に波及するだろうという懸念は、戦略的意味を持っている。
ロシアでさらに経済崩壊が起これば、社会不安が増大する。そして、国家崩壊へつながるだろう。ロシアは現在2〜3万発の核弾頭を保有している。それゆえ、ロシアの政治・経済が崩壊すれば、大惨事につながり得るのである。
IMF指導下、ロシア産業・原料は崩壊に向かっている。ロシア産業生産量は1989年の45パーセントであり、人口は減少し、税収は落ち込んでいる。世界の指導者たちが金融崩壊を直視し、IMFを崩壊させない限り、短期間であれ、ロシアの状況を改善させる試みは失敗に終わるだろう。
●瀕死のロシアの予算と銀行
ロシアの予算危機は、ロシア国債の投機的性格から来ている。
6月初旬、ロシア大蔵大臣ミハイル・ザドルノフはIMF指導の緊縮予算(12パーセント削減案)を発表した。何十万もの公務員が解雇される予定であり、鉄道も「再編成」され、合理化・崩壊される。これで7〜9月に30〜40億ルーブル、9〜12月に70〜100億ルーブルが節約できる。今年、ロシアが抱える負債は1000億ルーブルと見込まれており、平均利率は25パーセントの予定である。しかし、GKO平均利率は50パーセントで、これが続く限り、1000億ルーブルの負担が予算に加わることになる。これだけでIMF案による節約金を上回ってしまう。
6月3日、ロシア政府は58億3000万ルーブル(9億5000万ドル)のGKOを発行した。今回のGKOは主に343日間のものであり、利率は54パーセントの「低さ」に抑えられた。しかし、ロシア政府は窮地に立たされており、今回、歴史上初めて7日間GKOを発行した。つまりロシア政府は週決めで収支を合わせ始めたのである。7日間GKOの最初の利率は39.9パーセントだった。しかし、報告によれば、価格下落により、利率は50.8パーセントにまで引き上げられた。ロシア政府は2億ドル相当の7日間GKOを発行したが、それを捌くために必要な5分の1の買い手しか見つけることができなかった。
現在ロシアでは水曜日に常にパニックが起きているが、このパニックは夏中続くと考えられている。なぜなら1000億ルーブル(160億ドル)の国債が、8月末までに支払い期限を迎えるからである。
最も深刻なことは、ロシアの銀行システムが崩壊する危険である。実際、トーコ銀行は今年倒産し、スベル銀行(ロシアの預貯金システムを管理しているGKO最大保有銀行)は、ロシア株式市場で毎日価格を下げている。現在、銀行間システムは24〜96時間システムで通貨取引を行っており、それによってロシアの銀行システムは換金を行っている。しかし、この銀行システムがストップし、ロシアの銀行が換金できなくなる危険がある。
銀行危機により、GKO市場が機能しなくなる可能性も出て来た。そうなればロシアが抱える1450億ドルの海外負債が債務不履行になる恐れもある。ロシア人だけでなく海外投資家も、ロシアに投資した何百億ドル投資を失うことになる。
●南米をむしばむ経済危機
世界の金融システムが抱えている「アキレス腱」は、一つや二つではなく多数存在する。その一つは南米である。
5月29日の「ニューヨーク・タイムズ」紙は、次のように報じた。
「南米はアジアの金融・経済危機の影響をかわしたかのように見えた。その矢先、メキシコからチリに至る株式市場が崩れ始めた。この崩壊は三週間前に始まり、今週初めに加速し、崩壊規模はますます強まっている。」
5月1日から、メキシコIPC株式市場は12.6パーセント下落し、半年続きの下落を記録した。アルゼンチンのメルバル株式市場も14.4パーセント、ブラジルのボベスパ株式市場も15.6パーセント下落した。南米投資を専門にしているアメリカ投資会社は「過去21週のうち20週で、南米から投資が流出した」と発表した。
しかし、これら南米各国は根本的問題を抱えている。ブラジルでは今年1〜3月、海外負債が187億ドルから2124億ドルに膨れ上がり、世界最大の債務国となった。ある意味では、これはアジア危機の影響を受けたためであった。なぜなら、昨年アジア危機が深刻化した時、海外負債への利率が引き上げられた。それはアジア諸国だけでなく南米諸国にも適用されたため、負債コストが上昇したのである。
さらに、ブラジル経済が抱える根本的脆弱さにより、ブラジルは投機家の格好の標的となった。5月28日、ブラジル中央銀行・海外業務部長デモステネス・マドゥレイラ・ネトは、切迫した調子で声明を発表した。それによれば、ブラジル政府は通貨防衛のため150〜160億ドルの外貨準備金を使う予定でいる。実際、攻撃が行われているのである。
●アジア経済危機は第二の局面に
最後に、アジア危機についてである。
この危機については回復の気配がなく、3〜4月に第二局面に入った。アジア株式市場は、今年1〜3月、昨年6月以来の損失を幾分回復しつつあった。しかし、5月以来再び頭打ちの状況である。5月1日以来、香港ハンセン株式市場は16.1パーセント、タイSET株式指数は22.5パーセント、マレーシアのコンポジット指数は17.2パーセント、韓国のコンポジット指数は21.1パーセント、シンガポールのストレーツ・タイムズ指数は20.5パーセント下落した。
韓国では今年1〜3月、産業投資は前年比40.7パーセント下落し、建設業績も前年比39パーセント落ち込んだ。韓国GDPの半分を占める家庭消費も10.5パーセント下落し、これらは韓国中央銀行が1953年に統計を取り始めて以来、最悪の数字である。
この間、民間資本はアジアから流出し続けている。「ビジネス・ウィーク」紙の6月1日号は、「4月下旬、日本の投資家が記録的な210億ドルもの海外投資を行った」と報じた。これは資本流出のサインである。これにより円を防衛し、強くする日本政府の努力は無に帰してしまった。4〜5月、日銀は円防衛のため200億ドル以上を数回に分けて拠出したのである。
こうした資本流出により、日本の信用はがた落ちである。
日本はアジア経済の要であり、世界第二の経済力を誇っている。しかし、その日本の民間銀行は、7700億ドルの不良債権を抱えている。日本金融が崩壊すれば、それは世界金融の崩壊につながるのである。
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