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▼イスラエルの戦略分析と戦争への胎動


【1】イスラエルの中東戦争に向けての戦略分析


●イスラエルの戦略分析

 中東緊張が高まるにつれて、イスラエルのネタニヤフ政権は、防衛予算を5億4300万ドル増額する発表を行った。
 イスラエル国防軍(IDF)は、戦争の早期勃発に備え、戦略分析を進めている。イスラエルの核政策も変化し、イスラエルがさらに軍備を増強する可能性が出て来た。

 ネタニヤフ政権は強硬姿勢を取り続けており、戦争が現実のものとなる可能性がある。そうなれば、世界戦争に発展するだろう。
 ネタニヤフ首相は、モサド、IDF、シンベトといったイスラエル国防機関のトップと意見を同じくしている。彼の戦争努力は全面的に成功しているわけではないが、IDFの新司令官シャウル・モファズは有名なタカ派である。

 アミール・オレンは、イスラエル日刊紙「ハーレツ」の軍事コメンテーターである。彼は最近、次のような記事を発表した。
「イスラエルは戦略分析をしている。それはクリントン政権の力が弱くなり、ネタニヤフ政権が平和努力をしなくてもよくなったことから来ている。」


●三面戦争

 イスラエル陸軍は三面に配備されている。北部・中部・南部である。この三面で戦略分析が進められている。

 北部方面には、イスラエルが「安全地帯」と呼んでいる地帯がある。
 安全地帯は南レバノンに20キロメートル侵入しており、ゴラン高原帰属をめぐって紛争の絶えない場所である。
 ゴラン高原は、1967年戦争でシリアから奪い取ったものである。北部戦争では、シリアがゴラン高原を取り戻そうとして軍事活動に出る可能性が想定されている。

 和平交渉の破綻も北部戦争の原因となる。
 暗殺されたイツハク・ラビン首相、その後継者シモン・ペレスは、シリアのハフェズ・アサド大統領との交渉を進めてきた。しかし、ネタニヤフはこの努力を全く引き継ごうとしていない。
 シリアとの戦争が起きるかどうかは、レバノン次第である。シリアは3万5000人の部隊をレバノンに配備しており、シリア国内問題としても、ここは重要地域である。
 過去20年間、レバノンはイスラエル・シリアの紛争場所となってきた。イスラエルと南レバノン組織(ヒズボラ、アマルなど)が小競り合いをすれば、直ちにイスラエル・シリア戦争へとつながる可能性がある。

 98年8月末、安全地帯の情勢は俄かに悪化した。それは、IDFがアマルのゲリラ部隊司令官を暗殺したからである。
 報復としてアマルは、イスラエル北部にカチューシャ・ロケットを発射した。こうした攻撃は1996年以来なかったことである。

 イスラエル議会(クネセト)の海外事情委員会・委員長ウジ・ランダウ、警察相アビグドール・カハラニは、レバノンの発電所・水道を空爆する提案を出した。それは、ヒズボラがイスラエル軍に行った攻撃への報復としてである。
 ランダウはシリアのジープ部隊を破壊する提案も行った。
 また、アリエル・シャロンの動向にも注目しなければならない。シャロンは1982年の悪名高いレバノン侵入の計画者である。
 彼は現在、国家基盤相を務め、ゴラン高原に5000戸の家屋建設を認める決定を下した。しかし、ゴラン高原には数年前に建設された住宅が現在も売れずに残っており、今回の新たな建設はシリアから挑発行為として取られるだろう。

 中部方面では、IDFはパレスチナ軍との紛争を検討している。パレスチナ軍には3万5000人の部隊があり、それらがガザ地区・西岸に配備されている。
 もしここで紛争が起きれば、ヨルダン・イラクを巻き込む可能性がある。パレスチナからヨルダンへと難民が大量に流れ、「ヨルダンはパレスチナ」という言葉が現実のものとなるだろう。

 中部方面は最も危険な場所である。
 ネタニヤフはアメリカの提案、つまり「イスラエル軍は占領地域から第二次撤退を行わねばならない」という提案を拒否している。
 この提案はほぼ6ヶ月間、棚上げ状態であり、パレスチナ中に不満が高まっている。そして、パレスチナ機関(PA)のヤセル・アラファト議長の政治生命を危うくしている(身体的危機はないとしても)。

 最近でも、急進的イスラエル入植者とパレスチナ人との間で衝突が起きている。
 ナブルスやヘブロンといった西岸の都市では、急進的入植が進められている。そこでは最近、イスラエル人が殺害される事件が起きており、ネタニヤフはこれに対抗して、より入植を進める予定である。彼以前の政権は、こうした入植を決して認めなかったにもかかわらずである。

 こうした状況では、どんな事件でも大規模紛争に発展する可能性がある。
 例えば、8月27日、テルアビブのメイン・シナゴーグで爆弾が爆発し、12人が負傷する事件が起き、イスラエル警察長官はこれを「テロ攻撃」と呼んだ。しかし、誰一人として犯行声明を出したわけではなかった。
 ネタニヤフはここぞとばかりPAを非難し、「PAがイスラム過激派を取り締まることこそ、和平合意の条件である」と繰り返した。
 しかし、ハマス指導者アハメド・ヤシン師は、ロイターにこう語っている。
「誰が今回の事件を引き起こしたかは、私たちにも分からない。恐らく事態を紛糾させたがっているイスラエル急進派の仕業だろう。」
 PA和平交渉担当者ハッサン・アスフォーも言う。
「和平交渉決裂をパレスチナやアラブのせいにするのは、ネタニヤフ政権によくあることですよ。」

 南部方面では、エジプトとの紛争が想定されている。
 もっとも過去20年間、イスラエルとエジプトは正常な関係を維持している。エジプトはアメリカの同盟国であり、エジプトへのドル援助はイスラエルに次ぎ多い額となっている。  イスラエル作戦部は、エジプトが北部・中部での紛争に介入し、全面中東戦争になる可能性を想定している。


●ネタニヤフの戦略ミス

 オレンは以上のような想定を行っている。しかし、彼はイスラエル軍指導部、及びネタニヤフ政権の深刻な戦略ミスを警告している。
 彼は言う。
「新しい世代の兵士・将校は戦争経験がない。彼らより上の世代であれば、1973年10月の戦争を経験している。
 前の世代は戦争を食い止める方法を知らなかった。だから戦争が起きたのである。しかし、少なくとも彼らは、国際政治での駆け引きが破綻するまで戦争を起こさなかった。
 ところが、IDF新世代は、政治上駆け引きすら待たずに戦争を起こそうとしており、これでは大惨事となるだろう。
 戦争推進の張本人はモファズである。
 彼は1994年に軍指導部に入った。ヘブロンのイスラム・モスクで起きた50人の殺害事件を指揮したのも彼である。
 何より重要なことは、モファズは現在の地位を手にする過程で、ネタニヤフ首相、イツハク・モルデハイ国防大臣に世話になっているということである。それゆえ、モファズは戦争を阻止するよう政府に働きかける政治力を持っていない。」

 核兵器について言えば、戦略ミスがあった場合、核戦争へとつながる可能性がある。
 現在までイスラエルは「戦略的曖昧さ」を保ってきた。つまり、核兵器保有について肯定も否定もしないという姿勢である。しかし、この姿勢も現在、崩れつつある。

 イツハク・ベン・イスラエル将軍は、防衛省の「軍事研究開発局」局長を務めている。その彼が、最近ハーレツ紙で次のように述べている。
「もしイスラエルの防衛力が緩和されるとすれば、それはイスラエルが圧倒的防衛力を保有してからであろう。
 イスラエル防衛力について、私はとやかく言う立場にない。そんなことをすれば、いらぬ憶測が飛び交うだけである。
 もちろん防衛力緩和はイスラエルの政策である。しかし、先制攻撃能力もまた重要である。」


【2】ネタニヤフが新しい戦争を推進


●ネタニヤフ狂気の戦略

 98年9月の最後の週、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフがアメリカに行った際に、新しい中東戦争を伴うパレスチナ人との流血の決着をつける準備をしていることが判明した。
 9月24日の国連総会での故意の挑発的な演説において、ネタニヤフは、正式に命じられた99年5月4日のオスロ和平合意の満了の時に、パレスチナ自治政府議長ヤセル・アラファトがパレスチナ国家を宣言する意図を表明しようものなら、戦争になるという脅しをした。
 ネタニヤフは、アラファトがそのように言うことは、「不可避的に、我々の側の一方的な応答を招く、オスロ合意の根本的な違反になる」とかみついた。

 ネタニヤフは、「パレスチナ国家は“敵の軍隊の基地”となるので、イスラエルにとっては耐えがたい脅威となる」と付け加えた。
 イスラエルのマスコミの報道した、ネタニヤフが考えている“一方的な応答”とは、パレスチナ自治政府の支配下にまだ入っていないパレスチナの土地の公式の併合のことであり、パレスチナ自治政府によって管理されている市へのイスラエル軍の流血の再入国ということである。

 ネタニヤフの爆発の直後、アラファトは、9月28日の総会での演説の時に、そういう機会があったら、そのような国家を形成する意図を表明するのではないかと、数週間にわたって多くの人が予測していたにもかかわらず、そういう意図を宣言することはなかった。
 さらに9月27日、1年以上間を開けて、マデリン・オルブライト国務長官と一緒にネタニヤフと会った時に、アラファトは突然、オスロで決められた、西岸からのイスラエルの二度目の撤退の新しい打開策に同意した。
 その撤退はすでに1年も遅れていた。その提案によれば、イスラエルは西岸の13%から撤退し、13%のうちの3%は、イスラエルが管理する“自然公園”になるということである。

 その結果、パレスチナ自治政府は、その支配下にある元イスラエル占領区の40%のみをもって(93年9月に調印された合意の時に、アラファトと前イスラエル首相イツハク・ラビンによって想定された90%ではなく)、オスロで決められた“最終段階交渉”に99年の春に入るだろう。
 実際、95年にイスラエル支配層の党派がラビンを暗殺され、96年にネタニヤフが首相の執務室にやって来る道を開いたのは、パレスチナ国家を作り、占領区のほとんどをパレスチナ人に与えるというラビンの努力のおかげだった。

 また、ネタニヤフは、アメリカを訪問した時に、彼の仲間うちで最も血に飢えた国家基盤相アリエル・シャロンを、外相(ネタニヤフがその時兼任していた)に任命しようとしているという、イスラエルのマスコミの報道を否定することを拒否した。
「私はアリエル・シャロンを大変尊敬している。」
と、イスラエルのテレビにはにかみながら語った。
「彼はイスラエルの歴史の中で最も有能で経験豊富な人物の一人である。」

 ある信頼できる「ワシントン・ミッドイースト」のアナリストは、これらの侮辱的な進展についてコメントを述べ、アラファトは今、近年でも最悪の暗殺の脅威に直面していると警告を発した。
 とりわけ、パレスチナの町の人々の気分が、ネタニヤフの2年間のオスロ合意の不履行の結果として、1980年代の“インティファーダ”、イスラエルの軍隊に石を投げつけた抵抗運動の時の気分に戻ったからである。
 前にアメリカ国務省にいたことのある地位の高い別のアナリストは、「ネタニヤフは、イスラエルが仕組んだモニカ・ルウィンスキー事件によって、ネタニヤフが望む大統領ビル・クリントンの近い将来の追放の直後に取りかかりたいと思っている、計画中のパレスチナ人との決着の後、シリアとの新しい戦争を計画している」と付け加えた

 ネタニヤフの狂気の戦略上の意味については、イスラエルのある人々の中で共通の心配事となっている。
 9月29日付のイスラエルの日刊紙ハーレツは、「調停の勢いを根こそぎにしたことにより、オスロ合意を殺し、両国の国民を究極のやり方で敵意と憎悪の路線に乗せたことにより、両国民の間の平和を殺した」と、ネタニヤフを糾弾した。
 同様に、イスラエル陸軍情報部の半官的な代弁紙マーリブは、ネタニヤフに対し、「イスラエルの唯一のチャンスは、合意によって樹立されたパレスチナ国家と、暴力的な暴動の嵐のまっただ中で形成された国家の間にある」と警告した。


●神殿の丘を巡る挑発

 その間にネタニヤフは、来るパレスチナ人との決着と戦争への道を敷くために、他の前線をエスカレートさせた。
 最もひどいのは、ソロモンの神殿をその場所に再建するために、エルサレムにあるイスラムの最も神聖な寺院、アルアクサ・モスクを破壊することを要求している、シャロンの管理する“神殿の丘”の狂人を、ネタニヤフが援助するようになったことである。その団体は、ラビンを銃で殺した男を出した団体である。
 9月15日、首相のオフィスの代表が公式にあいさつをした、エルサレムでの「神殿の丘の信仰者」の尋常でない集会(2000人が参加)で演説した“神殿の丘”のリーダー、ゲルショム・ソロモンは、「聖なる都市が純粋にユダヤ人のものになるために、異邦人を立ち退かせるのは我々の義務である」と宣言した。
 彼は聴衆に向かって、「神殿の丘に登り、アルアクサ・モスクと聖墳墓教会を破壊する」ことを呼びかけた。
 また、「我々は、ユダヤ人の土地で、祈りへの呼びかけの合図や、非ユダヤ人の祈祷者のために鳴る教会の鐘の音は聞きたくない」と言った。
 その週末に新聞に発表された文書によれば、その団体は、計画中の再建する寺院のための“礎石”を動かすことを、早くも10月7日に予定しているということである。
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