●江沢民の重要な演説
1998年11月12日から18日にかけて、アジア太平洋経済協力(APEC)ビジネスサミットが、マレーシアのクアラルンプールで開かれた。
中国を除いた全部の国が国際的な金融危機で打撃を受けた地域で演説するにあたって、迷信深いアメリカ副大統領アル・ゴアは、言うことはただ一つしかなかった。“自由市場”の“魔術”である。
16日の大変むかつくスピーチで、ゴアはアジア太平洋諸国に対し、“脱構築主義”の「第三の道」のイデオロギーを信奉し、“グローバル財政建設”にすべてを捧げるように主張した。
しかし、ゴアの思うようにはならなかった。
中国の江沢民主席は、18日に行った政治家らしいスピーチの中で、真実を雄弁に語った。
江沢民は堂々と、「世界の危機の原因は“グローバリゼーション”にある」と言って非難した。そして、たとえその国が貧しくても、発展途上国であっても、いかなる国も、自国が決めた国家のあり方と国家利益に基づいて、経済を再建する方法を決めることを要求した。
同時に、中国が行っているように、どの国も自国の状況には自国が完全に責任を持つことを要求し、“先進”国は、自分たちが世界に放った国際“ホットマネー”投機の怪物を、檻に入れる責任を持つことを要求した。
江沢民は、重大な方針演説をするつもりでAPECに来たのであった。江沢民がAPECに到着する数日前、北京では、「江沢民は“重要”な演説をする予定である」という発表が行われていた。
この二つの演説は、それぞれの国の経済状況を如実に物語っている。
いまだに発展途上国の中国は、昨年には、世界の財政危機の影響への対策として、1兆2000億ドルの“ニューディール”を開始した。インフラストラクチャーの建設、工業、農業、科学や技術の発展、等である。
アメリカは、ロシアが受けたような乱暴な“ショック療法”のおかげで、生活水準が50%も下がって苦しみ、「産業の脱構築」という過去30年間の奈落の底に、まっすぐに進み続けている。
江沢民は演説の中で、世界がより不況に突っ込んでいく中で、中国が進めてきた政策の本質について説明をした。
「昨年に始まった財政危機は、世界全体に影響を及ぼしている。この危機は、世界のグローバリゼーションの進行が加速しているという国際的背景のもとに起こっている。
この状況は、世界中の人々に、ある重要な事実を明かす。グローバリゼーションは、すべての国に発展の機会を与えるが、同時に、重大な問題や危険性も生じさせるという事実である。
グローバリゼーションによって、新しく取り組むべき課題が増えてしまう。発展途上国に至ってはなおさらである。国家の経済の安全はどうやって確保すればいいのか。」
江沢民は、この問題に対する唯一の解答は、「すべての国が等しく発展できるような、公正で適切な新しい世界秩序を確立することだ」と演説した。
「これは、あらゆるサイドの利害に沿うような新しい世界財政秩序でなければならない。」
●“第三の道”の侵略
ゴアの意図とは違っているが、ゴアは、役に立つことをしたのかもしれない。
ゴアの不愉快な態度は、他のAPEC諸国の指導者たちにショックを与え、協力の段階に進もうという気を起こさせた。単に自己防衛の手段であるが、経済的な荒廃が起こる前より、ずっと強い協力関係である。
アジア人は、このようなことはすべて以前にも経験したことがある。
1996年、当時のイギリス労働党党首トニー・ブレアが、“賭け金保管人投資家社会”をしつこく勧めながら熱狂的にアジアに“遠足”した時、アジア人をそれに従わせた。
ブレアの用語は、教養のある人なら誰でも、まさしくゴアやブレアのような吸血高利貸しの印象を持つようなものだが、“第三の道”というものに進化した。アジアのリーダーは、他にもこのような事件に出くわすはめになった。
今年の7月にマレーシアのクアラルンプールで行われた「東南アジア諸国地域フォーラム連合」で、マレーシア首相マハティール・ビン・モハマド博士がジョージ・ソロスを攻撃した後、ソロスは東南アジアの国家財政をめちゃめちゃにした。
アメリカ国務長官マデリン・オルブライトは、億万投機家ジョージ・ソロスを守ろうとして、国務省の手下を率いて、当座しのぎの言い訳のお決まりの仕事を始めたのだった。
“第三の道”の乗組員は、明らかに会議をぶち壊そうという意図で、クアラルンプールにやって来た。
11月上旬には、早くもアジアの政治家は、「クアラルンプールでのAPECサミットは、財政危機と、アジア経済の復興の問題に焦点を絞るべきで、貿易自由化問題をめぐる無益な争いに脱線するべきではない」と強調していた。
11月5日、東京で、日本の外相高村正彦のスポークスマンは、キャンベラでオーストラリアの同僚アレクサンダー・ダウナーと会った後に、「我々は、クアラルンプールでのAPEC会議は、非常に意義深いものとなると思っている」と発言した。日本政府代表者は、「マレーシア・サミットで優先すべき事柄は、アジア経済の復興に焦点を絞ることであり、我々は、この問題への国際的関心が高まるように働きかけるべきである」と発言した。
マレーシア首相マハティールは、11月15日のAPECビジネスサミットで行った基本方針演説で、この立場の概略を説明した。
マハティールは、世界の貿易の40%を代表する国々から集まった1150名の聴衆を前に「信用を回復し、成長を取り戻す」という演題で、率直に見解を表明した。
「今年のAPECの主催国として、マレーシアは、この会議が、現在の経済問題の解決に役立つようにしなければならないという強い責任を感じている。新しいミレニアムが近づくにつれて、我々は、今“建設”という言葉で表現されているような、より良い経済体制を発案し、世界のために機能させる義務がある。この中のあるものは、技術の進歩を生むだろうし、あるものは、新しい経済と社会についての考え方と価値を生むだろう。
皆さんの寛容さに甘えて、私はこの機会を利用して、今、建設をするか、あるいは、国際金融システムにおける無秩序、無規制の資本の流れが示しているような、建設のない状況を選ぶのかについて議論したいと思う。議論するに当たって、我々は、現状の認識を妨げる狂信的な信念に縛られるべきではない。」
マハティール博士は演説の終わりに、ダウ・ジョーンズ社をはじめとするマネタリストの先鋒をやり玉にあげた。
特に、10月23日の『ウォールストリート・ジャーナル』の論説で、「中国は“創造的破壊”にふけっている」と書いた編集主幹のロバート・バートリーを叩き、「“創造的破壊”と呼ぶのは正しくない。我々は、破壊するとか、灰の中から飛び立つ不死鳥を期待するのではなくて、我々が今持っているものの上に建設することができるのである」と述べた。
●ゴアの安っぽい予定表
しかし、会議の最初から、ゴアのアメリカ代表団のオルブライト国務長官、アメリカ通商部代表シャレーン・バシェフスキーは、カナダ政府代表の支持を受けて、自由化政策を強硬に主張し、G7に入っているほど強い関係にあって統合されている日本にさえも、“巨大バブルを救済”すべきだと要求し、貿易自由化を急ぐ課題がストップしていると非難した。
バシェフスキーが、「APECの早期自主的部門自由化」の閣僚準備会議で日本を厳しく叩いた後、オルブライトが、解任されたマレーシアの副首相兼蔵相アンワル・イブラヒムの妻と会談し、相当派手に報道された。
そして11月16日、マレーシア首相と政府高官を含めた聴衆の前で、ゴアが“自滅”した。
ゴアは、使い古された言葉ばかりを繰り返した。――「不透明」「伝染」「縁故主義」「汚職」。
この用語は、これを実践しているロンドンのシティやウォールストリートの、正気でない金融関係者を非難するのではなく、これらのせいで荒廃させられた国々を非難するために、世界の財政論争の場で1年以上も使われてきたのであった。
ゴアの要求の中心は、“全世界を自由市場にする”ということだった。
ゴアは、IMF、世界銀行、アジア開発銀行が行った650億ドルの哀れな一括貸付を称賛した(しかし、この貪欲な守銭奴たちは、年間を通じて440億ドルしか支払わなかった)。この650億ドルは、アジア諸国に分散して貸し付けられ、インドネシアと韓国は、それぞれ1000億ドルをはるかに上回る額を負わされ、不良債権となった。
ゴアは、アメリカと日本による100億ドルの“援助”と“貿易融資”を申し出て、フランスの“アンシャン・レジーム”のすでに命運尽きたセリフのように、「ケーキを食べさせろ」と演説した。
ゴアはその次に、長年の自由市場の殺人的な“ショック療法”で破壊された、ロシアなどの国の指導者を侮辱した。
ゴアは、「究極的には、我々の最大の願いは、自由市場に魔術を行わせることである」と表明した。しかし、ロシアでは、その“魔術”はすでにホロコーストを生んでいたのである。
1992年以来、人口は100万人以上減っており、今年の冬には、さらに多くの人命が失われることが予想される。ロシアの首相エフゲニー・プリマコフは、ベトナムとペルーの大統領と同様、今回初めてAPECサミットの正会員となっている。
次にゴアは、日本に対する要求を述べた。
日本は1997年以来、工作機械の輸出だけでも50%以上減っているが、“銀行の改革、主要経済部門の規制解除、市場の解放”を行って、日本経済の自滅の道を実行することを要求した。
●“飛びかかる姿勢のライオン”の市場
そしてゴアは、“第三の道”の支持者は“透明さ”を要求しているのだと説明した。そして、ソロスや他のヘッジファンド・マフィアのような、犯罪投機家の活躍の場である“市場”というのは、地球上の誰にでも、どの政府にも、政策を命令する権利を持っているということも説明した。
インドネシアの過去の出来事が証明しているように、ゴアの市場とは“殺人鬼”である。
ゴアはさらに演説した。
「我々は、今日見られるような、高度に結合し合ったハイスピード情報経済と同様に、オープンで包括的なグローバル財政建設を必要としている。今日の経済は、情報の尺度の上に成り立っている。
国の経済力は、世界中の市場で絶えず投じられている信用の得票数から来るのである。その得票数は、億単位の取引を通して、政府の政策を日々評価している。
もし我々が、国家財政のゲームをしていると投資家に思われたり、国の財政のあり方が、秘密や混乱の厚い霧で覆われていたり、汚職でゆがんでいたりしたら、金利は即上昇するだろう。
政府・銀行・企業の活動は、IMF・世界銀行・WTOの活動と同じく、もっと大衆の厳しい目にさらされなければならない。解放性、透明さ、そしてもっと多くの部分を公開することは、経済の力を強め、世界中から投資を呼ぶ最も確実な方法である。」
ゴアは最後に、“ジャカルタの道を歩む”と呼ぶべきものを説明した。それは、“民主主義”を過度に信奉して、暴力的なデモや暴動で1200人以上の犠牲者を出した無知や無神経さ、というものだった。
ゴアは結論づけた。
「人々は、民主主義の犠牲を受け入れるだろう。人々が民主主義を選ぶ役割があったから、というだけではなくて、人々が、民主主義によって恩恵を得られそうだという正しい信念を持っているからである。
今年のインドネシアからのメッセージは、誤解の余地がないものである。人々は、未来を決める力が自分にあれば、未来に責任を持つことを望んでいる。
民主主義は、効果を発揮するためには改革が持たねばならない“合法の印”を与えることができる。だから、経済危機に苦しむ国の中で、民主主義と改革を求める声が、多くの言語で上がり続けているのである。“ピープルズ・パワー”“ドイ・モイ(改革:ベトナム)”“レフォーマシ(=改革:インドネシア、アンワル陣営のスローガン)”などである。
我々はその言葉を、今ここで、勇気あるマレーシアの国民の間で聞いている。」
ゴアはすぐに会議の場を去った。
ゴアの演説は、この特別なイベントを主催した財界人や政府代表にとっては名誉毀損の侮辱であり、主催国マレーシア政府の外相アブドラ・バダウィの抗議の公式書簡がアメリカに届くはめとなった。書簡では、マレーシアはアメリカに対し、「政情不安定をあおったことについて責任を取るべきであると警告する」と述べられていた。
通産相ラフィダ・アジズは、「ゴアの演説は、今まで私が聴いた中で、最も不愉快な演説だ」と言い放った。
●公正で適切な新秩序
ゴアとその仲間は、APEC会議をぶちこわすのに最善を尽くしたようであるが、江沢民の演説が、危機を解決する展望を与えた。
江沢民は、提案の基礎を国家主権に置いた。そして、「先進国も財政危機の心配がないわけではない」と先進国に対して警告をした。唯一の解決策は、「不公平で非合理な古い経済秩序を改革することだ」と述べた。
「あらゆるサイドの利害に沿うような新しい世界財政秩序が確立されなければならない。先進国は、経済成長を実際に成し遂げるような財政政策を取る責任を持たなくてはならないし、同時に、危機に襲われた国を助けなくてはならない。
そうすることのできる力を持った大国は、資本の流れを規制し、“ホットマネー”の投機を抑制しなくてはならない。これは、当該国の主権による決定、という基礎の上のみに行われなければならない。
どの国にも、固定的なモデルや他の国と同じ対策はないし、あり得ないのである。」
最後に江沢民は、APEC諸国が、経済・科学・技術上の協力関係を高める重要性について述べ、マレーシアと中国が取っている具体的な対策について言及した。
そして、「APEC諸国にとっては自由化も重要である」と認めたが、「それぞれの国の状況に合ったペースとやり方で、自発的に、柔軟に、現実的にのみ行うべきである」と述べた。
江沢民は、そのような条件でなら、アジア太平洋は、“広大で明るい未来”が実現する本当のチャンスをつかむことが実際にできると考えているということである。
中国の指導者たちは、ゴアのずうずうしさに堪忍袋の緒を切らし、11月16日の会議では、江沢民はゴアに向かってお説教をした。
その内容は、アメリカと中国の間で長年保たれてきた原則についてであったが、この原則は、アメリカがチベットと台湾に対する中国の主権を認めることに基づいたものであった。
その時、チベットのダライ・ラマが、ホワイトハウスでクリントン大統領、ゴア、オルブライトに迎えられたばかりの時であり、同時に、アメリカのエネルギー長官ビル・リチャードソンが、台湾で、台湾総統・李登輝と政府高官に会ったばかりであった。
江沢民は、アメリカと中国が“現在の機会を利用し、戦略上の建設的な協力関係を確立する”ことを求めた上で、次のように述べた。
「いわゆるチベット問題は、中国に対する帝国主義者の攻撃の産物である。世界のある反中国勢力が、中国政府に圧力をかけるためにその問題を利用しているのである。その勢力の意図は、きわめて明白である。」
11月19日、クアラルンプールで、中国の外相唐家センは、アメリカと日本が申し出た100億ドルの共同一括援助を“歓迎”し、次のように皮肉を付け加えた。
「このような国は、もっと前にこのような貢献をするべきだった。これは、先進国の義務であって、他の国に押し付けられるべきものではない。」
11月18日に、中国自身は、独自の45億ドルの援助とプログラムをAPEC諸国に対して実施することを発表した。その時、唐外相は、ゴアの態度に対する見解を表明した。
「中国は、どの国も、お互いに平等の原則に立って対処し合うべきで、お互いの内政に干渉するべきではないと考えている。
我々は、ゴアが演説したことは、マレーシアの内政問題だと思う。アメリカ人が言ったことに中国がコメントを述べるようなことではないが、中国政府は、今後永久に、他の国の内政問題に対して、責任の取れない意見を言うことは決してないであろう。」
●地域会議
APECサミットの後に、アジア地域に関する激しい外交駆け引きが行われた。二国間の会議がこのように行われていけば、公正な新しい世界経済秩序について、もっと実りのある討論ができるようになるだろう。
この交渉の中心になったのは、ロシアと日本への江沢民の訪問である。
江沢民は、11月22日にモスクワを訪問し、25日にノボシビルスクに向かう予定である。ノボシビルスクでは、アカデムゴロドクの核物理学研究所を訪問する予定である。
このロシアへの訪問は、両国の戦略上の協力関係を確立するに当たって、具体的な内容を盛り込むためには、非常に重要だと見なされている。
この他の事項について、中国外相唐家センは、「両国の指導者は、財政危機について議論し、現行の経済協定を履行し、多様化する現在の貿易構造を通して新しい出口を探す予定である」と語った。
そして、江沢民は25日にまっすぐ日本に向かい、中華人民共和国と日本の国交回復の25周年記念の式典に出席する予定である。これは、中国主席の初めての日本訪問となる。
APEC会議自体の中でも、多くの参加国が、二国間会議の招待をし合っていた。
すでに将来的に決まったものとしては、オーストラリアとニュージーランドへの江沢民の訪問、日本の首相小渕恵三のマレーシアとタイへの訪問、マハティール首相のシンガポールへの訪問、B.J.ハビビ大統領のオーストラリアへの訪問があり、ハビビ大統領は、政府の役職について以来初めての二国間の訪問である。ロシア首相プリマコフも、12月6日から8日にインドを訪問する予定になっている。
このような訪問や会談が成功するための準備における重要な点は、明らかに、アル・ゴアを招待する人が誰もいないようにするということである。
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